こんにちは。泉です。
指揮者としてまだ活動を初めて日が浅いですが、これまでに数多くの楽団との演奏会を経験させて頂いてきました。
演奏会も勿論楽しみなんですが、演奏会の後の楽しみというものが二つあります。
まず一つ目は、打ち上げ。
打ち上げは言うまでもありませんでしたかね。
飲んで食べて騒ぐのが好きなもので、演奏会は打ち上げのためにやっていると言っても過言では・・・
いや、過言でした。
そして、二つ目は「来場者アンケートを読む」ことです。
演奏会で来場者に配られるプログラムには、他の団体の公演チラシの他に「来場者アンケート」というものが挟まっていることが多いです。
来場者の方に、「どのようにして演奏会を知ったのか」や「次にやってほしい曲目」などを聞いて、次回以降の演奏会開催の参考にするのです。
多くの方のご意見は勿論、今後の活動に反映させて頂きますが・・・中には「珍回答」と言わざるを得ないような回答も含まれています。
今日の更新では、これまでに自分が出演させて頂いた演奏会の来場者アンケートで面白かった(頭を抱えた)回答を色々と紹介してみようと思います。
質問1「今後の演奏会で聴いてみたい作品」
ヴィヴァルディの四季
ヴィヴァルディ作曲、ヴァイオリン協奏曲集《四季》。
春の第1楽章が最も有名ですね。僕が一番好きなのは冬です。
四季自体は勿論、次の演奏会で聴きたい曲として挙げることに対しては何の文句もないんですが・・・。
これ、吹奏楽団の演奏会で回収したアンケートなんですよね。
・・・前から不思議だなと思っていることがありまして。
今まで吹奏楽の演奏会は東京や千葉などで主に関わらせて頂きましたが、どの地域で行われた演奏会で回収したアンケートにも結構な確率で《四季》がリクエストされているんですよね。
吹奏楽団に何を求めているのかは分かりません。(一応、吹奏楽アレンジ版が出版されているそうですが・・・)
モーツァルトのトルコ行進曲
これも割と多い回答なんです。
百歩譲って、ベートーヴェンのトルコ行進曲でしたら元が管弦楽曲なんで分からなくもないですが、モーツァルトのトルコ行進曲ってあれはピアノソナタの一部ですからね。
その他にも吹奏楽の演奏会でピアノ曲をリクエストしてくるお客さんには、たまに出くわします。
質問2 今回の演奏会についての感想
(吹奏楽の演奏会にて)自分はあまり大きい音が得意ではないので、弦楽器のメンバーを入れてオーケストラにして欲しい
冗談だと思うでしょう。
本当にあった回答です。
まあ、それならオーケストラの演奏会に足をお運びくださいとしか言えないんですが、そもそもなぜ大きな音が出ると分かっていて吹奏楽の演奏会に足を運んだのでしょうか。
オーケストラだからと言って音が小さいわけではないですしね。グローフェの《グランド・キャニオン》とか聴いてぶったまげて欲しい。
この回答を採用してしまうと、多くの管楽器メンバーの席が無くなる上に、サックスやユーフォニアムは事実上クビですね。
〇〇奏者の演奏する姿勢が悪くて不快だった
楽器名は伏せますが、こういうクレームを頂いたことがあります。
そんな不快感を与えるほど姿勢が悪かったとは思えないんですが、お客さんは色々なところを見てらっしゃいますね・・・。
舞台上で出演者が他の出演者に拍手を送るのはおかしい
これもよく分からないんですが、要するに、出演者同士で労い合うのは舞台上でするなということでしょうか・・・?
この回答に出会ったのは協奏曲がプログラムに組み込まれていた演奏会でのことでしたが、ソリストが入場する時に指揮者とオーケストラが拍手で迎えるというおきまりの流れが気に入らなかったのでしょうか。
また、協奏曲ではなくても、曲が終わった後に曲中でソロを演奏した奏者などを指揮者が指名して立たせることがありますよね。
その時に客は勿論、指揮者、演奏者も拍手を送ったり、あるいは足を踏み鳴らして賞賛を送るのですが・・・プロのオーケストラでも行っている事ですし、ソリストを務めた人に敬意を込めて拍手を送るのは、同じ出演者としても当然のことかと思います。
共演する者同士、敬意を払うのはとても大切な事ですよ。
そう言えば舞台上で足を踏み鳴らすと舞台が痛むからやめろ、という回答があったこともありました。
やめません。
質問3 その他お気付きの点がありましたらご記入ください。
自分が3度にわたりリクエストした曲がなぜ採用されていないのか?
気持ちは分からないでもないですがね。
アマチュアのオーケストラでは大体半年に1回とか、演奏会の機会そのものが多いわけではありません。なので全員のリクエストを採用するのは難しいんですよね。
これはご理解頂くしかないのですが、出来るだけお客様の希望に沿った選曲をしたいとも運営は思っているはずです。
過去に自分が指揮させて頂いた楽団では創立10周年を記念して、過去のアンケートにリクエストとして書かれていた楽曲のみでプログラムを組んだ演奏会を行ったことがありました。
実は、この話にはオチがありまして。
この回答はとあるオーケストラの演奏会で回収したアンケートの回答だったのですが、この回答をしてくださった方のアンケートの曲目リクエスト欄には、こう書かれていました。
必殺仕事人
・・・吹奏楽の演奏会でリクエストした方がまだチャンスはあるかと思います。
当日券は500円増しと書かれているのに、2,500円請求されたのは詐欺ではないか
前売り券2,000円、当日券で購入する場合は500円増し。
そういうルールでチケットの販売を行っているオーケストラの演奏会でした。
これに関してはこの回答者に一度お会いして話を聞いてみたいものです。
だって言っている意味が分からないんだもの。
悪意ある回答
アンケートに書かれている「お気付きの点」や「演奏会の感想」というのは殆どが今後の運営や選曲の参考になるものばかりです。
「ああ、この受付の対応はまずかったのかな?」とか「この曲とこの曲を組み合わせたのは流石に重かったかな?」とか、そこに反省が生まれ、次の演奏会の際に役立てることができます。
ですが、たまに悪意しか感じ取れない回答に出会うことがあります。
評論家を気取って曲の解釈に難癖つけてくる回答、奏者を名指しで罵倒する回答・・・
僕もいつだったか、指揮者が二人体制の演奏会で「泉という方の指揮者は要らない」と書かれたこともあります。
まあ、その時は初めて純粋な悪意に触れたため動揺してしまいましたが、よくよく考えると、このお客さんは何言ってるんでしょうね。
アンケートに何を書くのも勝手ですが、その意見を採用するかどうかは、楽団側の自由です。
下手したら、一人で意味のわからない罵倒を喚いているだけの人になっちゃいますよ。
アンケートに罵詈雑言書いて日頃の鬱憤を晴らしているのかなんなのか知りませんが、随分と可哀想だなぁとしか思えませんね。
もし、来場者アンケートで酷い回答に出くわして傷付いたという方がいましたら、これだけは言っておきたいです。
「そんなもの、気にしたら負け」
番外編「リクエストの多い人気曲」
「当団の演奏で聴いてみたい曲があれば、お書きください」という項目はどの演奏会のアンケートにもある項目だと思いますが、見ていると割と人気な曲の傾向が分かってきます。
票数を数えたわけではなく、「よくこの曲がリクエストされているのを見かけるな〜」と思ったものを羅列してみようと思います。
ドヴォルザーク/交響曲第9番 ホ短調 作品95 《新世界より》
オーケストラの演奏会でアンケートを回収すると、ほぼ確実にリクエストがある人気曲です。
集客力も凄まじいので、是非とも採用したい曲ではあるのですが・・・
テューバ奏者や打楽器奏者が嫌がるんですよね。(極端に出番が少ないため)
自分もテューバ吹きでしたが、もし所属しているアマオケで次のプログラムが《新世界より》に決定したら半年間の練習に耐えられる自信がありません。
ベートーヴェン/交響曲第9番 ニ短調 作品125 《合唱付き》
「第九」とだけ書かれていることが多いです。これも新世界同様の抜群の集客力がありますが、合唱団をどのように手配するか等アマチュアオーケストラだと難しい問題も多いです。
中には地域のアマチュア合唱団とコラボして第九を演奏したり、専属の合唱団を持っているアマチュアオーケストラなんというものも存在しています。
年末の風物詩、第九。是非一度は生演奏を聴いて頂きたいものです。
映画音楽
例えば「ハリー・ポッター」「ジュラシック・パーク」「スターウォーズ」など、作品名が書かれていることもあればただ単純に「映画音楽」とだけ書かれていることも。
権利関係がややこしかったり、譜面の手配が難しかったり、オーケストラの演奏会に映画音楽を取り入れるのは、なかなかにハードルが高いのです。
そういえば来年(2020年)客演させて頂くアマオケで映画音楽を取り上げるらしいんですが、譜面はどうやって手配しているんだろう。団員さんに聞いてみよう。
ゲーム音楽
上に同じ。リクエストに多いのは「ゼルダの伝説」「キングダムハーツ」「ファイナルファンタジー」あたりでしょうか。
映画音楽よりも譜面の手配が難しい気がします。僕はまだ演奏経験はありませんが、いつかやる機会が訪れるのでしょうか・・・。
ラヴェル/ボレロ
結構よく見かけます。吹奏楽の演奏会でもリクエストされますが・・・
曲の構成は単純ですが、めちゃくちゃ難しいんですよこの曲。
ラフマニノフ/交響曲第2番 ホ短調 作品27
言わずと知れた超名曲です。
第3楽章の美しさたるや、言葉では表すことができないほど。
編成が大きい割にはコントラファゴットなどの特殊管楽器やハープ、チェレスタなどの特殊楽器が含まれていないため、意外とアマオケでも取り上げられる機会の多い作品ですね。
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
「のだめカンタービレ」で一躍有名になり、フィギュアスケートでも使用された楽曲のため、知名度は抜群。
とあるアマオケに所属している知り合いから聞いた話ですが、この曲をプログラムに取り入れた際、集客がいつもの1,5倍くらいになったとか・・・。
ボロディン/韃靼人の踊り
歌劇《イーゴリ公》の中の楽曲ですが、これはリクエストも多いし、好んで取り上げる楽団も多い印象。
オーボエ吹きだったら絶対あのソロは吹いてみたいですよね・・・。
たまに度肝を抜かれるリクエストとしては、ストラヴィンスキーの《春の祭典》とかリヒャルト・シュトラウスの《英雄の生涯》、マーラーの《千人の交響曲》など・・・
千人の交響曲なんて、どうやって合唱を準備するんだよ。
・・・と思いましたが最近はたまーに取り上げるアマオケがあるみたいですね。恐ろしすぎる。
自分はまだ演奏家として活動を初めてそこまで長くないですが、それでもここまで面白い回答に出くわす機会がありました。
これからもアンケートの珍回答を楽しみにしていこうと思います。また面白い回答が集まったら記事にさせて頂くかもしれません。