音楽雑談

ベートーヴェンの未完の交響曲、AIが作曲

先日、ネットニュースを見ていたらこんな記事を発見しました。

AIがベートーヴェンの未完の交響曲第10番を完成へ

思わず二度見しましたが、実はこういった未完の楽曲をAIが補筆して完成させるプロジェクトは以前にもいくつかあったそうです。

色々な未完成交響曲

交響曲のみならず、「未完成」の楽曲というのは多く存在し、決して珍しいことではありません。

創作の続行を不可能とする要因の一つは作曲者本人の死によるものですが、例えばシューベルトの《未完成》のように死を迎える6年も前に作曲されていながら未完とされる作品もあります(そもそもこの曲は未完なのか、でも議論が分かれるところだと思いますが)。

他に有名どころでいったらマーラーの《第10番》、ブルックナーの《第9番》などが挙げられます。

マーラー/交響曲第10番 嬰へ短調

未完の理由は作曲者の死によるもの。

マーラーは第九のジンクスを非常に意識していました。本来第9番に当たる交響曲に番号をつけず《大地の歌》として、その後《交響曲第9番》を完成させるも結局《第10番》は未完のまま亡くなります。

第1楽章を除いてスケッチが残っているのみです。遺稿は5楽章形式となっており、デリック・クックによる補筆完成版、通称クック版が今日では演奏される傾向にあります。

第二次世界大戦以前は第1楽章のみの単独演奏が多かったようですが。

ブルックナー/交響曲第9番 ニ短調

同じく作曲者の死により未完。

第1楽章から第3楽章までは完成しており終楽章のみが未完ですが、完成している第3楽章までの演奏が主流です。

ブルックナーは亡くなる日の午前中までこの交響曲の第4楽章の作曲に取り組んでいましたが、結局完成することはありませんでした。

ウィーン大学の講義において、自分が交響曲第9番を完成させる前になくなったら《テ・デウム》を代わりに演奏するように、という発言をしていたそうですが、その意図はどこにあったのでしょうか。

調性もニ短調とハ長調で異なっていますし、楽器編成も大幅に異なります。

今日、この曲が演奏される際には

・第3楽章までの演奏

・補筆完成された第4楽章までの演奏

・《テ・デウム》を同一演奏会にて演奏する

という3つのパターンで演奏されています。

ベートーヴェンの未完の交響曲をAIが作曲

2020年にベートーヴェンの生誕250年を迎えるにあたって、AIを使って未完だった《交響曲第10番》を完成させようというプロジェクトが現在進行中。

今回のプロジェクトでは、前述のような音楽学者や他の作曲家による補筆完成ではなくて、機械の学習ソフトにベートーヴェンの全作品を学習させて《交響曲第10番》の未完成の部分をベートーヴェン風に作曲させているとのこと。

ベートーヴェンの後期の交響曲は《第5番》と《第6番》、《第7番》と《第8番》のように2曲1組として作曲していますの。《第9番》と《第10番》も当初は2曲セットになる構想だったようです。1曲は純粋な器楽曲、もう1曲は声楽を取り入れた曲となる予定がこの2つの交響曲のアイディアを統合して《第九》が生まれました。

このプロジェクトではこれまでにもバッハやシューベルトの未完の作品を完成させようという試みがあったそうですが、それらはどれも良い出来ではありませんでした。

シューベルトの作品については「シューベルト作品というよりアメリカ映画のサウンドトラックのようだ」という評価だったそうです。

今回の《第10番》の完成も賛否両論あるようですね。

僕はどちらかといえば反対です。あくまでベートーヴェンの作品を学んだAIによる作曲ですし、ベートーヴェンの意思を尊重するものとはとても思えないからです。

すでに制作されている部分を試聴した音楽学者からは「ベートーヴェンが意図したものであるという説得力に欠ける」などの意見が出ていますが、それに対してプロジェクトのリーダーは「AIは、非常に短い時間で信じられないほどの分量のメモを学びます。最初の結果こそ、人々は『大してよくないじゃないか』というかもしれませんが、分析が進んでいくと、ある時点で、本当の意味であなたを驚かせます」とコメントしています。

AIの進歩は音楽方面でもめざましいが・・・

AIの進歩は本当にすごいと思います。

以前AIで作られた美空ひばりの映像を見ました。歌声、こぶし、タメ、全てにおいて美空ひばりそのものであり、自動運転などの技術以外に、芸術面でもここまで進化したのかと感動を覚えたほどです。

しかし、「作曲」となるとどうでしょうか。

歌声であればサンプルが多ければ多いほどAIはその特徴を学んで本人の再現をすることも可能でしょう。

いくら「サンプルとして」ベートーヴェンの遺した多くの楽曲があるとはいえ、結局は彼の頭の中にしか正解は存在し得ないのです。

オーケストレーションや和声を真似たとしても、それがベートーヴェンの作品として認められるとは到底思えません。

怖いもの見たさというか、完成した《交響曲第10番》は聴いてみたいとは思いますが、その時世間の評価はどんなものになるでしょうか。

初演は来年ボンで行われるベートーヴェン生誕250年の祝賀行事にて。

ABOUT ME
condzoomin
指揮者・ピアニスト・愛猫家。ショスタコーヴィチの作品研究と演奏をライフワークにしています。好きな日本酒は浦霞。