計画性無く書き始めた駄文であることを最初に断っておく。
僕は、幼少期からピアノをずっと習っていた。
ふと思い返すと、ピアノを好きだったことがあったのだろうか疑問だ。
小学生の頃。練習が嫌で嫌で仕方がなかった。母親に怒られて渋々30分だけ練習して、またすぐゲームの続きをやりに戻る・・・といった怠惰さ。

水泳とかと同じ「やらされている習い事」だった。
中学受験の勉強のため、小学6年生になった時に一時的にレッスンを休会して丸1年近くピアノに触らない時期があった。
受験を終えて、親から「ピアノはどうする?やめる?」と聞かれた時、なぜかは自分でも分からないが「続ける」と答えた。

思えば、あれは「意地」のようなものだったのかもしれない。あるいは、今までやってきたものが無かったことになってしまうことへの恐怖か。(ちなみに弟たちもピアノを習っていたが2人とも受験が終わったらキッパリと辞めた)
中学3年。僕は指揮者という職業に憧れた。親は音楽の道へ進むことを反対していたから、こっそりとインターネットでどうやったら指揮者になれるのかを調べた。
「ピアノがプロ並みに弾けないといけない」
とあるホームページ(?)にそのような文言が書かれていた。
仕方なくピアノの猛特訓を始めた。指揮の勉強なんて何をしていいのか分からなかったから、とりあえずやれることをやろうと考えたのだ。
親に言われながら嫌々30分練習していた毎日だったのを改めて、休みの日は3時間から5時間近く練習するようになった。その頃から少し難しい曲を弾けるようになったのもあって、ピアノを弾くことが楽しくなってきたのかもしれない。自主的に練習するようになった。
でもピアノが好きかと聞かれたら悩んだだろう。あくまでこの頃の僕にとってはピアノは「指揮者になるためのツール」でしかなかったのだから。
高校生になり、本格的に音大への進学を視野に入れ始めた。もちろん親には反対されていたので、一般大の教育学部も志望校に入れていた。
音楽の道に進むことへの本気度を見せるために、コンクールに出た。高校2年生の時だ。あの頃は本当にピアノ漬けだった。とにかく何らかの賞に引っかかってくれたら、少しは自分が本気だというアピールになるだろう・・・と。部活の無い日は8時間近く練習していたこともあった。

結果、小さなコンクールだったが入賞を果たした。その賞状は今でも実家の自室に飾ってある。
高校2年生も終わりに差し掛かった頃にようやく音大受験の許しが出た。ソルフェージュや和声のレッスンにも通うようになった。
高校3年生。前年と同一のコンクールに出て、同一の賞を取った。この時に弾いた曲は東京音楽大学の受験でも自由曲として演奏した。
思い返すとこの頃が一番ピアノと向き合っていて、自分の技術の全盛期だったように思える。
2010年、僕は東京音楽大学に入学した。
大学の専攻はもちろん「指揮」であり、ピアノはあくまで副科。高校生の頃より練習量は落ちた。
しかし、やはりピアノを本気でやっておいて良かった。同級生の伴奏や、オペラの稽古ピアノなどに取り組んだ結果生まれた縁もたくさんある。今の仕事につながっているものも。
大学院を出てプロの音楽家として独立した最初の数年はとにかく無我夢中だった。色々な現場に足を運んで師匠や先輩指揮者のアシスタントをして・・・ピアノを触る頻度はどんどん減っていったように思う。
それでも伴奏の仕事は大きな収入源だったのでまだ練習する習慣は残っていたが・・・。(ちなみにコロナ禍で仕事の大半を失った際もピアノ伴奏の仕事が収入の助けになった)

自身が指揮者と並行してピアノ奏者としても活動するようになった転機は、やはり弾き振りだったと思う。
常任指揮者を務める八千代フェスティバルバンドで「ラプソディー・イン・ブルー」のピアノ弾き振り(指揮と独奏を1人で行う)を依頼されたのだ。

大学生の時ぶりに本気になって練習したかもしれない。
この公演の話が知り合いに広がってその後も何曲かピアノ協奏曲を弾く機会が訪れることになる・・・
今は指揮の仕事が9割以上を占めているが、それでもピアノの練習は欠かさない。本番の日や泊まりでの仕事の日は無理だが、それ以外の日は大体1日3時間は弾いていると思う。(ちなみに本番を終えてその日のうちに自宅に帰れる日は帰ってから5分〜10分だけ音階などの基礎練習をしてから寝る)
だが、練習に向き合うモチベーションは「好き」ではない。そんなポジティブなものではない。ただ僕は技術が劣化することが怖いのだ。中学受験を終えてピアノを続ける選択をした時と同じ思考回路かもしれない。
自分からピアノの技術が失われていくのが怖い。ただそれだけの理由で毎日3時間、ピアノと向き合っている。特に人前で演奏を披露する機会がない時期でも。
それでも日に日に技術は落ちているように感じる。些細なミスタッチを連発するし、黒鍵から指が滑り落ちることも多くある。本番で致命的なミスをしたこともある。

特に伴奏や室内楽は共演者に迷惑がかかるから本当に心臓に悪い・・・
自室で練習しているとあまりに弾けなくて叫ぶこともある(知人に言うと想像がつかないと言われるが)。自分の下手さで情けなくなり何度も練習を切り上げたこともある。
それでも翌日になるとケロッとしてまたピアノに向き合っている。不思議なものだ。
僕は心からピアノを好きになったことはない・・・と思う。
でも僕にとってピアノは日常の一部になっていて、切り離すことができないものなんだろう。
もしピアノを辞められるか?と聞かれても絶対に辞めないと思う。
それはもしかしたら、もしかしたらだけど「本当はピアノが好き」という自分が自覚していない感情に由来するのかもしれない。
まあ、結局のところ自分の本心は分からないのだけど、僕は明日もまた朝からピアノの練習を始めるのだろう。
